
前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)
【プロフィール】
1962年山口生まれ。1986年東京工業大学大学院修士課程終了後、キヤノン株式会社入社。超音波モータや精密機械の研究開発に従事。1995年慶應義塾大学専任講師、同大学助教授を経て2006年より同大学教授。1990~1992年カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、2001年ハーバード大学訪問教員。現在、ヒューマンシステムデザイン研究室において、システムデザイン方法論(システムアーキテクティング方法論、教育方法論、科学技術倫理)、科学技術システムデザイン(触覚システム・ヒューマンシステムデザイン)、人間社会システムデザイン(システム幸福学、環境共生・安全システム)などの研究に従事。日本機械学会賞(論文)、日本ロボット学会論文賞、日本バーチャルリアリティー学会論文賞等を受賞。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?』(技術評論者)などがある。博士(工学)
Interview #017-2 2009年06月10日 晴れ @神奈川県横浜市/慶應義塾大学日吉キャンパス
「協生」時代のアーキテクチャーの在り方~SDMを通じて見えてきたもの~(part2)

キャリアをデザインするということ
-実際移ってみて如何ですか?
狙い通り(?)、新しいものを作るのだという活気に満ち、様々な分野から同じ志を持つ一流の人材が集まったとても楽しい場所になっています。学生も、教員も、メーカー、サービス、シンクタンク、金融、建築、アート、マスコミ、コンサルタント、法曹、省庁、教育、経営者まで、あらゆる分野、あらゆる年齢層、様々な国籍の者が集まり、皆が『木を見て森も見る』ことを目指す雰囲気があります。
入学者の満足度はきわめて高くて、国内にも国外にもこれまでになかった大学院になってきたのではないかと思いますね。ただ一方でまだできたばかりで、知名度が高いとは言えません。21世紀の人材育成を世界的にリードする大学院として、不動の地位を確立させることが、私のこれからの大きな使命だと思っています。そのためはまず、すばらしい人材を輩出していくことと、すばらしい研究成果をあげていくことに尽きるのだと思っています。是非多くの志の高い人たちに参加してほしいですね。
-前野さんのお話を伺っていると、研究者の側面だけでなく、実践家としての側面を強く感じるのですが、それは、ご自身のこれまでのキャリアに大きく影響されているのでしょうか?もともとは大企業で働く企業人・サラリーマンだったわけですね?
そうです。大学を卒業してキヤノンに入社しました。民間企業に就職したのは、その当時の大学に私自身それほど魅力を感じなかったからです。企業よりももっと狭い世界で自由度がないように思えたので企業に就職しました。大学の魅力を認識するようになったのは、米国への留学が大きなきっかけです。米国の開かれた大学のあり方に感動しましたし、こんな大学だったら働いてみたいと思えたんですね。振り返ってみるとSDMで私がやりたいと考えている自分なりの原点がここにあるといえます。
米国留学から帰ってきて、タイミングよく大学で働く機会を得ることが出来ました。当時は文部科学省の方針もあってか企業経験者の採用が増え始めた時だったので、企業から大学へ移るチャンスが今よりあったといえるかも知れません。その意味でとても運がよいといえます(笑)
-先ほどのお話もありましたが、理工学での専門を追求されている立場から、一転して全く異分野の領域へキャリアチェンジされているようにみえます。一旦築き上げたものを手放すことに関して不安などはなかったのですか?
こうしたチャレンジができたのも、「心」に関する本を書いたことが大きな転機になったと思っています。(『脳はなぜ「心」を作ったのか』)工学領域での研究者だった私が専門でない「心」という人文領域の本を書いたわけですが、これで随分自信がつきました。そもそも本質的な"ものの見方・考え方"は同じなんですね。こうした経験を通じて、いろんな批判をうけることがあったとしても、一つの領域に閉じこもっているより、本質的にやりたいこと、やるべきことに関わっていきたいという気持ちになってきたんです。
それにもともと私自身、関心が広がっていくタイプなので、それまでも理工学から心理学、哲学、倫理学、科学技術論まで、幅広い分野に興味を持ち、多くの分野の人と議論を重ねてきていました。こうした経験を活かしたいという気持ちもありましたし、自分しかやれないのではないかという、漠然とした自信もありましたね。
研究者として「深く狭く掘り下げること」も好きなのですが、一方で「広く拡げる」ことも好きなんです。振り返ってみると、小さい頃から世の中を"俯瞰して見る"子供でしたね。そのせいか、会社員時代は"学者っぽい会社員"だといわれ、大学にきてからは、"会社員っぽい学者"だと言われてきたんですよね(笑)
-そうしたバランス感覚が前野さんの大きな強みの一つなんでしょうね。
あと、自分が直感的に面白いと思うものが時代と合っている気はしていますね。ロボットをやっていてロボットブーム、脳に取組み始めると"脳"ブームが起きたりしましたので、時代の変化みたいなものに嗅覚が働いているのかも知れません。




